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オートバイ

「兄ちゃん、お前のせいで死んだんだぞ…。お前、それでも葬式に出ないってのか!おい!」

3年前に聞いたはずの次男の声が、今、頭の中をまわっている。

俺は、三田家の三男としてうまれた。
貧乏でもなく、裕福でもなく、そこそこの暮らしを、
そこそこ平和に過ごしていた。
しかし、ある日。
俺は、オートバイで人をはねてしまった。
3年ほど前のことだ。
相手は、13才の少女。
頭から血を流す少女を前に、俺は何もできなかった。
近くにいた通行人が警察と救急車を呼び、
少女は、なんとか一命をとりとめた。

しかし、そこからが問題だった。

少女は下半身麻痺で車椅子がなければ生活できなくなっていた。
友達のいない少女にとっての唯一の道楽は一輪車であったというから、
少女の悲しみや計り知れない物だろうと思うと、
今でも申し訳なくて涙が出る。

だが、それ以上に、娘の笑顔を奪われた少女の父親は悲しんでいた。
いくら謝りにいっても、顔さえ見せてもらえず、
いつも、わずかばかしのお菓子を玄関先において帰った。

そんなある日、
怒りに震えた少女の父親が、ついにナイフを持って我が家にどなりこんできた。
俺に向かってナイフを振り下ろした少女の父親を前に、
俺は死んだと思った。

しかし、死んだのは俺ではなかった。

正義感が強く、その上体格のよかった兄は、
その屈強な腕で僕を突き飛ばした。

そして

死んだ。

兄を刺し殺した、少女の父親は、一瞬何が起きたかわからない様子で、
状況を把握したとたん、一目散に逃げていってしまった。

俺は、血だらけになりぐったりとする兄を前に
「逃げた」
自分がはずかしくなり、どこへともなく、
ひたすら逃げた。
結果的には何人もの人間の人生を狂わせたオートバイで、
夜ごと走りとおした。

東京世田谷にあった実家から、箱根をこえ、名古屋を過ぎ、
大阪、姫路、岡山、広島、下関・・・

とにかく、ひたすら走った。

気がつけば、鹿児島でバイトをしていた。
ゲイ・バーだ。
恥ずかしさはあった。
しかし、金も持たずに出たのだからと、あきらめていた。

家を出てから一ヶ月ほど経ち、脈絡もなく次男の声が聞きたくなって電話した。
しかし、
「兄ちゃん、お前のせいで死んだんだぞ…。お前、それでも葬式にでないってのか!おい!」
という怒鳴り声が聞こえ、すぐに電話は切れた。

一ヶ月もたち、もう大丈夫だと思っていたのに、次男は錯乱状態であった。
いや、当たり前だろう。
僕だって、こうして出てこなければ、今頃どうなっていたかわからない。

その後、福岡、山口、松江、大阪と、
西日本の都市を転々としては、違法な職場でテキトーに稼いでいた。
気が付けば、3年たっていた。

今自分は、世田谷にいる。

あの日、周りの人間の人生をかき回すことになった、
あの交差点にいる。

帰ろうと思った。

でも、まさかこうなるとは思っていなかった。

サイレンの音がする。
俺をはねたエスティマが、ゆっくりとバックしていく。
あの日少女は、こんな景色を見たのか。
しかし、俺は、下半身麻痺じゃすまされないだろうな。

薄れ行く意識の中で、
とまりかけた心臓の音を聞きながら、そんな事を思っていた・・・





作:土間 
作成日:2009/03/28



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